“詩と歌と戦争”
自分の大切な人が太平洋戦争で亡くなった。三十路半ばの私ですが、そう思える出逢いと別れがありました。
めぐり逢えたのは、尹東柱という詩人。この方の詩がとっても素晴らしく素晴らしくて。一つ紹介します。
序詩 尹東柱著 金時鐘訳
死ぬ日まで天を仰ぎ
一点の恥じ入ることもないことを、
葉あいにおきる風にさえ
私は思い煩った。
星を歌う心で
すべての絶え入るものをいとおしまねば
そして私に与えられた道を
歩いていかねば。
今夜も星が 風にかすれて泣いている。
(1941.11.20)
『空と風と星と詩』に収録
本当に気に入った作品というものは、その作者へも時空を超えて出逢える実感があります。私は尹東柱先生に出逢えました。しかし、先生の生涯を調べてみると、太平洋戦争中の日本へ留学し、治安維持法の容疑で捕らえられてしまいます。懲役は二年でしたが、それを待たずに獄死されています。
今も世界では、あちこちで戦争が起き、亡くならなくてよい命が奪われています。その国の詩人とその作品を知ることも、戦争に対する無関心を醒めさせる薬になると思いました。 moriyan

思いがけず、シンガーソングライターの前野健太さんの大ファンの方から、ニューアルバム『ワイチャイ』が月森庵に送られて来ました。くすっと笑ってしまう曲があったり、多言語や異なる土地の曲で旅気分を味わったり、ピアノの演奏にも魅了されて、前野さんの歌心にどっぷりはまりました。どの曲もちょっと古いものに想いを寄せる情景や物語が浮かび上がるのですが、その中でも今のご時世だからこそ心に引っ掛かる曲がありました。
『戦争が夏で良かった』より、
「戦争が夏で良かった
と言ったら勝手すぎるだろうか
暑い暑い太陽 心はまだ凍ったまま」という歌詞。
愛おしい日常がぱっと消え去るような儚さや悲嘆、だけど人間らしい力強さもあるし、時代が激しく変化する瞬間の空気を感じます。
アルバムおまけの解説音源で、前野さんは「気持ちはもちろん反対。戦争したい人なんていないと思うんです」と語ります。戦争を肯定も美化もしているわけでなければ、反戦歌という手法でもないのです。しかし現代の日本の街並みに、戦争の影が落ちていることを気づかされる歌でありアルバム構成でした。不条理な社会でも、人としての感情表現、人間臭さ、無邪気さを持ち続けるということを、果たしてどこまで出来るでしょうか…
『近い将来について話している』という曲の次に『戦争が夏で良かった』という歌がクレジットされている事にも、ドキッとさせられました。 tsukiyan
平和
葉祥明『ことばの花束』2003年より